本研究では、硫黄-金属(鉄、マンガン)2成分クラスターを硫黄粉と試料金属粉との混合試料へのレーザー蒸発法により気相中で生成させ、負イオンの光電子スペクトル測定から構造、電子状態を原子数・組成を選別して定量的に解明した。特に、使用した磁気ボトル型電子エネルギー分析器では負イオンの速度を脱離レーザー照射時に如何に抑えて、ドップラー幅を小さくするかが分解能を向上させる上で重要であるが、光電子の運動エネルギーをこれまでよりも10倍程度、高分解能(10meV)で検出する負イオン減速システムを構築し、クラスターの電子状態に加えて振動状態を分離することを可能とした。 鉄-硫黄クラスターでは元素組成比が1対1のクラスターが多く生成され、フェレドキシンなどの酵素活性中心のクラスター部位と同じ組成が気相中でも安定して生成されることがわかった。また、その光電子スペクトルでは、この安定なクラスターを境にしてスペクトルの形状が大きく変化し、それ以降は同じ形状を与えることがわかった。このことは、元素組成比が1対1のクラスターが核となって成長していくことを示している。これらの結果は、酵素活性中心を抽出して、その機能を合成化学へ応用できる可能性を示唆している。また、鉄と硫黄とが1原子ずつのFeS-クラスターの光電子スペクトルを詳細に検討して、未知の3つの電子状態を同定した。一方、マンガン-硫黄クラスターでも元素組成比が1対1のクラスターが多く生成され、鉄-硫黄クラスターと同様の構造を有していることがわかった。また、マンガンと硫黄とが1原子ずつのMnS-クラスターの光電子スペクトルを詳細に検討して、未知の1つの電子状態を同定した。
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