レーザーパルス光を用いた高速の温度ジャンプにより、蛋白質の構造ダイナミクスを調べるために以下のことを行った。 実験装置の製作 まず、レーザーパルス光を用いて高速の温度ジャンプが可能な実験システムを製作を行った。レーザーパルス温度ジャンプの光源としては現有のQ-スイッチNd:YAGレーザー(パルス幅10ナノ秒)を用いた。レーザー温度ジャンプの方法としては、溶媒である水自身にエネルギーを吸収させる方法について特に検討した。水は近赤外領域(1.9μm)に強い吸収(20cm-1)をもつ。この吸収帯で水を励起すると、直接溶媒である水の温度を上げることができる。そこで、Nd:YAGレーザーの基本波(1064nm)を高圧の水素ガスセルに入射し、水素分子の誘導ラマン光(H-H伸縮振動による1次のストークス光)により1.9μmのパルス光を得ることを試み、それに成功した。さらに、この誘導ラマン光が最も効率よく得られる水素のガス圧やポンプ光の収光の度合などを検討し、最適な条件を求めた。 上昇温度の見積もり 試料の温度上昇を、ラマンスペクトルのストークス光とアンチストークス光の強度比から求めることを試みた。ストークス光とアンチストークス光の強度比は系のボルツマン分布によって決定されるので、なんら仮定をはさむことなくこの強度比から試料の温度を見積もることができる。これはラマン分光法を用いることの大きな利点である。しかし、期待される十度程度の温度差を精度よく知るには、低波数領域のバンド強度を正確に求める必要がある。現在のところ分光器内の迷光のために、この見積りがうまくできていない。しかし、狭帯のカットフィルターを用いることにより、迷光の原因となるレーリー散乱やレーザーの洩れ光をカットすることができるので、現在適当なフィルターを検討中である。この問題を解決し次第、すぐに蛋白質の構造緩和の実験に取りかかる予定である。
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