1.ビスマスが高原子価状態において示す特異的な挙動は、構造、理論および合成化学の領域において興味深い研究対称として注目を集めている。本課題においては、最近までその姿が全く知られていなかったアルケルビスムトニウム塩およびビスマス上にキラル中心を持つ非対称テトラアリールビスムトニウム塩の一般的な合成法を初めて確立し、その構造と反応性について詳細に検討した。 2.トリフェニルビスマスジフルオリドを、塩化メチレン中ルイス酸存在下、シリルシアニド、アルケニル錫と順次反応させると、アルケニルトリフェニルビスムトニウム塩が安定な結晶として得られる。X線結晶構造解析の結果、ビスマス中心は歪んだ正四面体型構造を取り、対イオンとの相互作用は比較的弱いことが明かとなった。アルケニルビスムトニウム塩はスルフィン酸塩およびパラジウム錯体と容易に反応してアルケニル基を優先的にトランスファーする。塩基との反応においては、系中でフリーなアルキリデンカルベンを発生し、スチレンが共存する場合にはトリフェニルビスムタンの脱離を伴って対応するシクロプロパンを与える。 上の反応系において、アルケニル錫の代わりにアリール錫を炭素求核剤として用いると、非対称アリールトリフェニルビスムトニウム塩が高収率で得られる。この手法を利用して、全てのアリール基が異なる非対称テトラアリールビスムトニウム塩の合成に成功した。この化合物はビスマス原子上にキラル中心を有しており、異性化挙動の解明や機能性材料への応用など、様々な展開が期待できる。
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