研究概要 |
核磁気共鳴(NMR)法を用いる蛋白質の構造解析において側鎖の位置・立体選択的重水素標識は極めて有効であり、帰属の確定したプロキラルな水素、メチル基などのシグナルを用いて結合定数、NOEなどの構造情報を抽出することが可能となる。本研究では有効なプローブとなりうるL-threo-およびL-erythro-[1-^<13>C, 2, 3-^2H_2]アミノ酸の合成経路の確立を目的とした。 アミノ酸のαおよびβ位に重水素を導入する手法としてデヒドロアミノ酸の位置・立体選択的重水素添加が最も簡便であるためErlenmyer法およびPhosphorylglycine法を用いる各種デヒドロアミノ酸の合成法を確立した。また、様々な遷移金属触媒を使い分けることにより各種デヒドロアミノ酸の位置・立体選択的重水素化を達成した。重水素標識されたN-アセチルアミノ酸の光学分割はアシラーゼを用いるアミドの不斉加水分解により行った。すなわち、DL-threo体のアシラーゼ分解によりL-threo-アミノ酸を単離した後、未反応のD-threo体については2位をラセミ化してD-thero体およびL-erythro体の混合物とし、再びアシラーゼ分解に付してL-erythro-アミノ酸を単離した。[1-^<13>C]グリシンを出発物質として同様の手法を用いることにより目的とする各種L-threo-およびL-erythro-[1-^<13>C, 2, 3-^2H_2]アミノ酸の合成を達成した。得られた2重標識アミノ酸の^<13>C NMRスペクトルを測定したところカルボニル炭素と2つのプロキラルなβ水素との結合定数を容易に求めることができたためCα-Cβ間の回転異性体存在比を決定し蛋白質構造解析のプローブとしての有効性を確認した。
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