昨年度までに筆者は、ルイス酸触媒およびρ-トリフルオロメチル安息香酸無水物の存在下、等モル量のカルボン酸シリルエステルとアルキルシリルエーテルを室温で反応させると対応するエステルがほぼ定量的に得られることを見いだした。本年度、これらの反応をさらに簡便かつ有用な手法とするため、カルボン酸とアルコールをケイ素誘導体に導くことなく一挙にエステルを得る触媒的反応の開発を検討したところ、系内にクロロトリメチルシランを共存させることにより、目的の反応が進行することを見い出した。すなわち、ルイス酸触媒、ρ-トリフルオロメチル安息香酸無水物およびクロロトリメチルシランの存在下、遊離のカルボン酸とアルコールから対応するエステルが、またω-ヒドロキシカルボン酸からマクロラクトンが高収率で得られた。特に、分子内に二重結合を有するためシス体からトランス体へ異性化しやすい13員環マクロライドであるリチノレイン酸ラクトンの合成において異性化およびラセミ化を全く生じることなく目的とする化合物のみを高収率で得ることができた。一方、ρ-トリフルオロメチル安息香酸無水物に代わる脱水剤を見い出すため種々検討を続けたところ、八員環状シロキサンが上記目的に有効であることが分かった。すなわち、ルイス酸触媒および二当量のオクタメチルシクロテトラシロキサンの存在下、当量の遊離のカルボン酸とアルコールの脱水縮合反応を行ったところ、ほぼ定量的に対応するエステルが得られた。反応機構の詳細な検討により、この反応は八員環状シロキサンがカルボン酸を活性化することにより進行することが明らかとなり、光学活性なアルコールを反応基質として用いた場合でもラセミ化を伴うことなく目的とするエステルが高収率で得られた。
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