多数の同一小分子が非共有結合性の比較的弱い相互作用に基づいて特異的ないし選択的に自己集合することにより“超分子"が構築され、その結果、特徴ある物性が生まれる。その一つとして注目される、最近、我々のグループにより見いだされたピリジルボラン誘導体により構築される自己集合体を、本研究では“超分子"と呼ぶにふさわしい分子認識能、機能性を付与した包接化合物に格上げすることを目的とした。研究期間中に得られた実験成果を以下にまとめた。 ナノスケールに及ぶ環径を有するピリジルボラン系化合物として、ピリジン環とホウ素原子の間にベンゼン環を挿入した誘導体:ジエチル[4-(3'-ピリジル)フェニル]ボランを3-トリメチルスタニルピリジンと1-ブロモ-4-ヨードベンゼンとのStille反応をkey stepとするルートにより合成した。構造決定には寺島氏らの反応を用いた。得られた化合物の基本物性を各種NMRスペクトル、マススペクトル、蒸気圧浸透圧法に基づき精査したところ、重トルエンの様な非極性溶媒中では環状3量体の配座異性体の平衡混合物として存在するのに対し、重アセトンの様な極性溶媒中では平衡はほぼ一方に片寄り、1種類の環状3量体として存在する事が分かった。溶液中でのこの動的挙動はピリジルボラン系化合物では前例がなく、大変興味深いものである。現在、NMRを用いた包接能の検討および計算による配座解析を進めている。
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