研究概要 |
三重項-三重項エネルギー移動などのように電子スピンをもつ系のエネルギー移動過程では、どのようなスピン固有関数でそしてどのような選択性でドナー側のスピンが消えアクセプター側にスピンが生成されるのか、そのメカニズムを時間分解ESRの測定により知ることができる。本研究では系統的な研究が可能な系として異なる2つのポルフィリンをスペーサーでつないだポルフィリンハイブリッドダイマーに着目し、分子内エネルギー移動におけるスピン分極を観測し、エネルギー移動過程をスピン化学という新たな側面から明らかにすることを目的とした。 スペーサーとしてはベンゼン環、ナフタレンを用いた。ドナーとして項間交差の速い銅(II)ポルフィリンを、アクセプターとしては三重項状態のエネルギーが低いフリーベースポルフィリンを用いた。 過渡吸収スペクトルおよびその時間減衰の測定より2つのハイブリッドポルフィリンダイマーでそれぞれの銅(II)ポルフィリンの最低励起三重項からフリーベースポルフィリンへの分子内エネルギー移動の効率と速度を求めた。エネルギー移動の効率はともにほぼ1であったが速度は0.2ns,0.5nsであった。これはそれぞれのダイマーにおける2つのクロモフォア間の距離の違いによると考えられる。 エネルギー移動直後のフリーベースポルフィリン部の時間分解ESRスペクトルは分子内項間交差で得られるフリーベースポルフィリンのものとは異なっている。またゼロ磁場分裂もモノマーのフリーベースポルフィリン三重項の場合と異なり、フリーベースポルフィリン三重項のスピンと銅(II)ポルフィリン基低状態の不対電子スピンが相互作用が寄与していることがわかった。また相互作用の大きさがベンゼン環でつないだダイマーとナフタレン環でつないだダイマーでは異なりその違いが両者に全く別のスペクトルパターンを与えることがわかった。
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