Helicobacter pylori(H.P.)は胃粘膜に棲息する消化性潰瘍の病原菌である。これまでにビスマス-チオレート錯体には強力な抗H.P.活性があることを明らかにしてきた(平成6年度奨励研究(A)研究結果)。化学療法的立場からすると配位子となるチオール基含有化合物には毒性があってはならず、むしろ薬理活性を有するものが望ましい。そこで本年度は白血病治療薬として臨床現場で使用されている6-メルカプトプリンを配位子としてビスマス錯体の合成を行い、組成の異なる2種類の錯体a(Ligand/Bi=4)、b(Ligand/Bi=3)の単離に成功した。分光学的キャラクタリゼーションによる結果、配位子の結合様式についてaは主にチオン型、bはチオレート型のSNキレート配位をしているものと結論した。現在、両錯体の単結晶X線構造解析が進行中である。 DMSO溶媒中での錯体aの挙動をNMR法(配位子滴定、温度可変測定)により検討した(尚、bは不溶性)。高濃度(|Bi|>100mM)領域では、過剰に加えられた配位子ともともとBiに結合していた配位子との交換速度は非常に速く、NMR観測時間で平均化される。その平均化には配位子内(あるいは配位子間)のプロトン移動とメルカプトプリンの素早い互変異性化とが関係していることがわかった。また|Bi|<10mMの低濃度領域では配位子の一部がはずれDMSO溶媒が配位することがわかった。 錯体a、bとも水に対して不溶性であったため抗H.P.活性およびH.P.菌ウレアーゼに対する阻害活性試験を行うことはできなかった。高pHおよび低pH領域では両錯体とも水溶性となるが、徐々に加水分解する。NMR法を用いたpH滴定の結果、高低pH領域で配位子自身はビスマスイオンとほとんど相互作用しないことがわかった。
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