四座のシッフ塩基を配位子とするTi(IV)錯体は、これまでいくつか合成されているが、オキソ配位子(O^<2->)を含むものについては、酸素架橋した二核構造(Ti-O-Ti)のものしか構造が明らかになっていない。本研究では、シッフ塩基を配位子とするTi(IV)多核錯体を合成、構造決定し、その反応機構について考察した。 赤色の酸素架橋した二核錯体、[{Ti(NO_3)(salen)}_2O]と1/2モル量のNaOHをメタノール中で反応させ、橙色の錯体を得た。一方、[{Ti(NO_3)(salen)}_2O]と等モル量のNaOHを反応させ、黄色の錯体を得た。それぞれの錯体を結晶化してX線構造解析を行ったところ、橙色の錯体は、CH_3OH…Ti=O・・Ti-O-Ti・・O=Ti…HOCH_3のように、四個のTi原子が直鎖状に配列したTi(IV)四核錯体、[{(CH_3OH)Ti(salen)OTi(salen)OTi(salen)}_2O](ClO_4)_2であることが明らかになった。一方、黄色の錯体は、ジ-μ-オキソ錯体、[{TiO(salen)}_2]であることが明らかになった。 これらの錯体生体の反応において、[{Ti(NO_3)(salen)}_2O]とNaOHが1対1で反応した場合、不安定な反応中間体として、オキソチタニウム(IV)錯体、[TiO(salen)]が生成すると考えられる。すなわち、[{Ti(NO_3)(salen)_2O]と1/2モル量のNaOHとの反応では、元の二核錯体の半分がNaOHと反応して[TiO(salen)]を生成し、この[TiO(salen)]が、残りの未反応二核錯体に配位して四核錯体を生成すると考えられる。一方、[{Ti(NO_3)(salen)}_2O]と等モル量のNaOHの反応では、反応は完全に進行して[TiO(salen)]を生成し、これが二重化して、ジ-μ-オキソ錯体を形成すると考えられる。
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