リン脂質二分子膜の閉鎖型小胞体であるベシクルは生体膜モデル系としてこれまで幅広く利用され、その静的及び動的な膜構造が詳細に明らかにされてきている。これら膜構造の研究の多くは大気圧下のもとで行われており、高圧力下におけるものは比較的少ない。高圧力下でのリン脂質多重層ベシクルの物性は分光学的手法を中心として幾つか測定されている。しかし、これらの測定方法は主として脂質分子周囲の微視的な環境変化を捕えるものであり、巨視的な物理化学量の変化(熱量や体積変化)を追跡するものに関しては、測定装置上の問題もあり極めて少ないのが現状である。そこで本研究では、まず高圧力でベクシル水溶液の圧縮率歪を精度良く測定する装置を設計、製作した。次にこの装置を用いてベシクルの相転移点前後で圧縮率歪を測定することにより、相転移に伴うベシクルの体積変化量を直接的に求めることを試みた。 約70MPaまでの圧力下における圧縮率歪の値を求めるためにAnton Paar社の振動式デジタル密度計の高圧用セル(DMA60/512)を用い、高圧ゲージ及び高圧ポンプと共に圧力ラインを組み上げ、高圧力下での密度測定の装置を現在構築中である。またDMA60/512からの電気的信号をRS232Cシリアルインターフェイスを介してパソコンに取り込み、測定した水溶液の密度から同時にその水溶液の圧縮率歪の値がわかるように測定の自動化を図っている。この製作した装置を使用してリン脂質多重層ベシクル水溶液の圧縮率歪の測定を行い、ベシクルが起こす種々の相転移(ゲル相-液晶相、ゲル相-interdigitated相等)に伴う体積変化を直接的に求めることを予定している。さらにより高圧力下においてはガラス製の水銀ピエゾメーターに改良を施し、水溶液の圧縮率歪が圧力の連続的な変化に対応して測定可能な装置を製作するつもりである。
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