生物種内に維持されるDNA変異の量は、突然変異率、集団の有効な大きさ、遺伝的組換え率等様々な要因によって影響を受ける。ここ数年間で、DNA変異量とその領域の組換え率との間に正の相関が存在することを示唆するデータが蓄積されつつある。その理由の一つとして、自然淘汰に有利な突然変異の固定による効果(ヒッチハイキング効果)が考えられている。当初、本研究は種間で固定している染色体の構造変異を利用して、DNA変異量とその領域の組換え率との相関の有無を検証することを目的としていた。しかし、米国の研究者がこのプロジェクトを実行していることが判明したことと、ヒッチハイキング効果の検証にはぜひとも有利な突然変異の同定が必要と考え以下の解析を行った。 キイロショウジョウバエとその近縁種の胸部には一定のパターンで剛毛が観察される。しかし、キイロショウジョウバエとオナジショウジョウバエとの間の雑種ではこの剛毛を失う傾向がある。種間雑種の形態・発生異常は機能的な種間変異の存在を明らかにする有効な表現型と考えられる。このような種間変異の中には自然淘汰に有利であったものも含まれている可能性が考えられる。そこで、種間雑種の胸部剛毛の消失に関与する遺伝子のクローニングのため以下のスクリーニングを行った。遺伝的解析から、剛毛の消失には、オナジショウジョウバエのX染色体が大きな効果を持つこと、またその効果は少なくとも部分的に劣性であることを明らかにした。そこで、キイロショウジョウバエの欠失染色体を用いてスクリーニングを行い、剛毛の消失に関与することを示唆する2つの領域を見い出した。そのうち、細胞学的位置3Aについて細胞に解析を行った。その結果、これまでに致死遺伝子として同定された遺伝子座ではなく、新たな遺伝子であることが示唆された。また、その位置を約150kbの領域に限定することができた。
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