タッパナガの回遊パターンを調査するため、岩手県内の突き棒漁船に発見報告の協力を要請した。情報は10件にとどまったが、現在も情報収集を継続している。また、北海道室蘭においてクジラ類の観察を続けている噴火湾海洋動物観察協会からも目撃情報を得た。これらの情報から、タッパナガは7月下旬三陸沖に現れ、8月下旬から10月上旬、スルメイカの来遊とともに津軽海峡から噴火湾へ北上する。9月には再び三陸沖に出現し、冬にはさらに南下するものと考えられた。今後とも継続して発見情報を収集するとともに、識別個体の再発見記録から、回遊について詳細なデータを得、水温、餌生物の分布等との関連を検討する。 7月下旬に東大海洋研の調査により、三陸沖のタッパナガ調査を行った。漁船より情報を得つつ探査を行い、群を発見追尾し、個体識別用の写真撮影、行動観察を行った。また、噴火湾海洋動物観察協会より写真の提供を受け、総計約130頭分の個体識別写真を得た。これらにより、背びれの形状、背びれ後部の鞍型模様から、個体識別が可能であることを確認した。次いで、これらの特徴をもとに、個体台帳を作成した。 群れ構造の観察から、群は数頭よりなるサブグループがいくつも集合して形成されていることが明らかとなった。さらに、親子間だけでなく、近接して遊泳するサブグループ内の個体は、互いに背びれの形状、鞍型模様のパターンが非常に似通っていることが判明し、これらの形質が遺伝すること及びサブグループの個体が緊密な血縁関係にあることが強く示唆された。 当科学研究費により本年度行った調査の結果、三陸沖のタッパナガ個体群が、個別識別法による生態研究に非常に適しており、日本では希有な研究フィールドとなりうることが確認された。今後も大槌沖と室蘭において継続して、個体識別調査を行い、この個体群の生態、社会構造について明らかにしていく予定である。
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