生物個体群の群れ形成に関するダイナミクスを考察するため、最適群れサイズがどのようにして決まるかについての数理モデルを理論生物学における包括適応度の概念をもとに構成し、解析した。群れの融合や分裂、群れ間の個体や小集団の移住、群れ内での群れサイズ維持過程を考慮にいれた集団内の個体の適応度変化を用いて、群れサイズが成長してゆく場合に選択されてゆく最適な群れサイズの数理的解析を行った結果、群れ間の相互作用によって決定する群れサイズは、一個体の加入、あるいは脱退の繰り返しによって決まるものとは必ずしも一致しないことが示された。これは、従来、数理生物学において示されてきた群れサイズ決定の理論からは導かれ得なかった結論である。さらに、群れの間における(融合や分裂に関する)葛藤(conflict)が起こりうることが示され、その解消の数理モデリングをおこなった。構成された数理モデルによって葛藤の解消の結果の群れサイズは、特に、群れ間の葛藤に費やすコストの差が大きい場合に、非自明なものになりうることが理論的に示唆されると共に数値計算による実験によって示された。その結果は、論文としてまとめられ、現在、投稿中である。今年度の研究において構成、解析された数理モデルでは、包括適応度の数理的構成において、相互作用を被っている時点での二つの群れの間の相互作用(融合や分裂)による適応度変化のみを導入していた。一方、例えば、ある群れのメンバー個体が他の群れに移籍するような場合には、導入するべき包括適応度変化は、二段階の過程、すなわち、元の群れからの脱退による適応度変化と脱退後に移籍先の群れに加入することによる適応度変化を合わせて考慮する必要がある。このような過程は生物の群れ構造の動態の生物学的に重要な側面であるが、その数理的研究は今後の課題であり、本研究はそうした研究への基盤となるものである。
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