ユリ花粉管から単離、精製した170-kDa重鎖からなるミオシン(170-kDaミオシン)の活性(F-アクチンによって活性化されるATPase活性とin vitroでF-アクチンを滑走させる運動活性)は、μMオーダーのカルシウムイオンによって阻害される。この阻害機構を170-kDaミオシンの軽鎖サブユニットの同定も含めて詳しく解析した。カルシウムイオンによる170-kDaミオシンの運動活性阻害にATPは必要ではないことから、ミオシンがリン酸化されることにより阻害が起こっているのではないと考えられた。また、^<45>Caを用いたゲルオーバーレイ法の結果から、カルシウムイオンは170-kda重鎖に直接結合しなかった。ホウレンソウのカルモジュリン(CaM)に対する抗体を使ったイムノブロットと免疫沈降実験の結果から、170-kDa重鎖にCaMが結合していることがわかった。この結合しているCaMは10^<-5>M以上のカルシウムイオンが存在すると170-kDa重鎖から解離した。またCaMはニトロセルロース膜上に固定された170-kDa重鎖に、カルシウムイオン濃度が低いと結合した。以上の結果から、ユリ花粉管170-kDaミオシンの軽鎖サブユニットの一つはCaMであり、カルシウムイオン濃度が高くなると170-kDa重鎖から解離すること、またCaMを介して170-kDaミオシンの活性がカルシウムイオンによって制御されていることが明らかになった。高等植物からカルシウムイオン感受性を保持したミオシンを単離して、その機構を分子レベルで解明したのは本研究が初めてである。現在カルシウムイオンが軽鎖サブユニットであるCaMに結合しただけで170-kDaミオシンの活性が阻害されるのか、あるいはCaMがカルシウムイオンによって170-kDa重鎖から解離することにより活性が阻害されるのかを解析中である。
|