これまでに、カゼインキナーゼII(CK-II)による分子量34kDaのRNA結合因子(p34)のリン酸化が、葉緑体遺伝子の転写後制御機構に重要な役割を持つことを示した。最近、CK-IIによってリン酸化される分子量56kDaのDNA結合性タンパク質(p56)と、CK-II-p34に親和性をもつ50kDaのプロテインキナーゼ(PK50)を葉緑体中に新たに見い出した。そこで平成7年度は、p56の精製と同定、およびPK50を生化学的に解析することにより、最終的に葉緑体の遺伝子発現に関与するCK-IIおよびPK50を中心としたプロテインキナーゼの機能を明らかにする目的で研究を行った。 1.ホウレンソウ葉緑体粗抽出画分からp56を効率的に精製する方法を確立し、p56はssDNA-celluloseカラムククロマトグラフィーによる精製で、等電点の異なるp56A (pI6.8)とp56B (pI4.8)に分離された。 2. p56Bは部分一次構造による解析から、葉緑体チラコイド膜に存在するATP合成酵素のβサブユニットであると同定でき、CK-IIによるp56Bのリン酸化は光合成のATP合成の過程で重要な役割を持つことが示唆された。 3. p56Aを同定することはできなかったが、p56AのCK-IIによるリン酸化はA-TリッチのDNA存在下で著しく促進されることが明らかになり、本リン酸化は遺伝子発現に関与することが考えられた。 4. PK-50は、CK-IIとともに分子量24kDaのDNA結合性タンパク質(p24)を共通の基質とし、本p24は核局在タンパク質であるヌクレオリンと高い相同性があることが明らかになった。 以上の結果から、葉緑体の遺伝子発現機構では、CK-IIおよびPK50をはじめとしたプロテインキナーゼが相互作用し、重要な役割を果たすことが考えられた。
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