本研究では、海水適応に重要な役割を果たすとされているコルチゾルの受容体の部分クローニングを、広塩性魚類のティラピアにおいて行い、成魚の鰓での受容体mRNAの発現を明らかにした。 ティラピア(Oreochromis mossambicus)の肝臓より調製したRNAを逆転写し、PCR反応に用いた。プライマーは、高等脊椎動物でのmRNAの配列を参考にし、ホルモン結合部位を増幅するように設計した。このPCR産物をベクターに組み込んで増やし、塩基配列を調べると、ニジマスで報告されている配列と91%の相同性を示すクローンが得られた。ヒトの各種ステロイドホルモン受容体と比較すると、糖質コルチコイドの受容体に最も高い相同性を示した。これらのことから、得られた配列をティラピアのコルチゾル受容体(GR)の部分配列と考え、プローブとして以下の実験に用いた。ノーザンブロット法により、ティラピアGRのmRNAの長さを調べると、約6.5kbであり、ヒトの7kbに近い長さであった。各組織間でGRmRNAの発現を比較すると、鰓に強いシグナルが見られた。これは、海水適応の際のコルチゾルの主な標的器官が鰓であることと一致していた。また、脾臓と血球にも強いシグナルが見られたが、哺乳類では、これらの器官にもコルチゾルの受容体の存在していることが知られており、矛盾しない結果である。ティラピアを淡水中あるいは海水中で飼育し、鰓に発現しているGRmRNAを調べると、淡水中において約50%程度高い発現が見られた。受容体の産生はむしろ淡水中のほうが活発であると考えられる。 今後は、当初の目的である発生のごく初期、卵や胚期におけるコルチゾル受容体の発現動態をRT-PCR法を初めとする手法を用いて検討していく予定である。
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