前期前微小管束(PPB)は、高等植物において、分裂予定位置の細胞表層に形成される微小管の束であり、細胞板を正しい位置に導くことに関与していると考えられている。PPBの機能の一つの可能性として、分裂予定位置の細胞膜へ分泌小胞を導く可能性が古くから考えられているが、証明は全くなされていない。ホウライシダ原糸体細胞において、分裂直前に細胞を遠心し、核と細胞質を分裂予定位置から移動すると、すでに形成されていたPPBの形成場所に細胞質が集積することは報告した(村田、和田 1994)。PPBによって、ゴルジ体由来の分泌小胞がPPBの存在する細胞膜に融合した結果、細胞表層が細胞質を集積させる能力を獲得する可能性を考え、今年度はこの可能性の検討を行った。 ホウライシダ原糸体を細胞板形成開始の約2時間前にゴルジ体の破壊剤であるブレフェルジンA(BFA: 50μg/ml)で処理すると、細胞板形成が阻害され、多核の細胞が誘導された。細胞板は分泌小胞の融合により形成されることから、50μg/mlのBFAは分泌小胞の形成を阻害すると考えられた。同様のBFA処理をPPB形成途中に行い、薬剤存在下で2.5 時間培養した後に細胞を遠心して細胞質の集積に対する影響を調べた。遠心直前に細胞を固定し、電子顕微鏡によりゴルジ体を観察したところ、ゴルジ体の数は減少し、残ったゴルジ体は極端に変形していた。一方、PPBに異常は見られなかった。遠心後の細胞質の集積はBFAによって阻害された。しかしながら、BFAを処理した細胞においては細胞周期の遅れと非同調化が見られ、BFAによる細胞質の集積阻害がゴルジ体の破壊を介して起こったのか証明するには至っていない。
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