南米ボリビア国の中央部サジャ地域から見つかっている最古(約2500万年前)の広鼻猿類化石Branisella bolivianaの上顎大臼歯を対象に、咬耗様式と咬耗痕についての形態学的な解析をおこなった。 Branisellaの上顎大臼歯では、舌側側の咬頭(プロトコーン)が最初に咬耕することがこれまで見つかっていた標本から指摘されていた。1993・94年に京都大学霊長類研究所の発掘調査隊によって新たに発見された標本でも、この特徴が確認され、プロトコーンの異常な咬耗ぶりが指摘されていた。さらに、同地域で発掘調査をおこなっていたアメリカ合衆国のデューク大学の調査隊の発見した標本と直接比較観察した結果、同様の特徴がみられた。 以上の観察結果から、南米大陸の広鼻猿類化石としてもっとも原始的な特徴を保持していると考えられるBranisellaでは、上顎舌側部の咬頭が異常に咬耗するような特殊な食性を保持していたという結論が得られた。こういった咬耗式は南米の広鼻猿類はもちろん、現生の霊長類でも全くみられない。歯列全体の形態からみると、Branisellaは果実食性であったと考えられるが、現生種からの類推は困難である。 そこでこれらの標本の咬耗痕の観察・分析をし、咬耗痕をその長さや深さといった形態で分類して、Branisellaの生存時の食性についての解析をおこなっている。当初は光学顕微鏡下ですべての解析をおこなう予定であったが、微小咬耗痕の観察をするには走査型電子顕微鏡を用いた方が観察しやすいので、現在は走査型電子顕微鏡下での解析を中心におこなっている。
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