単結晶の微傾斜面上に規則的に配列したステップおよびテラスを利用して有機分子のヘテロエピタキシャル成長を行う手法を開発することを目的として研究を行った。傾斜基板上に成長した有機分子は低速電子線に弱いことが明かになったため、反射高速電子線回折上において、電子線入射方位角を連続的に走査して二次元回折強度を得る新しい手法/装置を開発し、構造解析が容易に行えるようになった。この手法を用いて、水素終端化Si(III)上への金属フタロシアニンエピタキシャル膜の組織的な構造解析を行った。分子形状の効果を調べるため、平面正方形型の銅フタロシアニン(CuPc)と、四角錐型の酸化バナジウムフタロシアニン(VOPc)について行った実験の結果は以下の通りである。 まず、水素終端化Si(III)(2〜7度)の微傾斜面には1原子層高さのステップが規則的に存在することが確認された。これらの面の上に成長したVOPcは、一次元秩序を持っており、基板の傾斜度によって一次元秩序の強さが異なる。CuPcの成長膜には一次元秩序はほとんど存在しないが、基板と膜の対称性の違いによって生じる多ドメイン化が抑制される。 多ドメイン化の抑制は、基板上に規則的に存在するステップが結晶核形成に寄与することを示している。成長条件や基板の傾斜角を選ぶことによって、従来エピタキシャル成長しなかった分子のエピタキシャル成長を行う、分子スケールでのグラフォエピタキシ-につながることが期待される。 また、ステップに平行な一次元秩序の形成には、色素分子の励起子の集団励起など新物性が期待されるため、継続的に実験を進めている。
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