本研究では、遷移金属不純物の発光は歪に非常に敏感であることに着目し、カルコパイライト半導体のヘテロピタキシャル層に存在する格子歪を評価することを目的に実験および考察を行った。遷移金属であるFe不純物はCuGaS_2において主な残留不純物であり、配位子場遷移による強い赤外発光(2μm)を示すことが知られている。まず、InSb赤外線検出器を用いた赤外フォトルミネッセンス(PL)測定系の構築を新たに行った。8KにおけるArレーザ(514.5nm)励起の結果、ヨウ素輸送法で作整したCuGaS_2単結晶において0.613eVに残留Fe不純物による発光線を観測した。同測定条件で減圧MOCVD法によりGaAsおよびGaP基板上にエピタキシャル成長させたCuGsS_2薄膜の測定を行った。しかし、エピタキシャル薄膜において0.61eV領域に発光を観測することが出来なかった。この原因として、(1)MOCVD-CuGaS_2層には残留Fe不純物が殆ど含まれないこと、(2)膜厚が0.7μmと非常に薄いこと、(3)格子歪による発光線の大きなブロードニングの為発光強度が低下したこと、等が考えられる。そこで、CuGaS_2:FeのPL励起スペクトルは1.1eVにピークを持つことに着目し、PL測定計の高感度化を図りPLの再検討を行った。励起光を本研究経費により購入したYAGレーザの1.064μm光(1.16eV:300mW)に変更し、8KでPL測定を行った。この結果、バルクCuGaS_2結晶におけるFe発光線強度は一桁以上増加した。しかし、MOCVD-CuGaS_2層からのFe発光線は検出限界以下であった。即ち、Fe発光線の強度は無添加バルクCuGaS_2の強度の1/10000以下と見積もられる。本補助金による研究終了後も、残留Fe不純物分析や厚巻エピ(数ミクロン以上)を用いた測定を検討しており、研究を継続したい。
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