Bi系酸化物超伝導単結晶の作製において、従来から結晶の大型化と高品質化(超伝導特性の向上)とは相反する課題であった。すなわち、単結晶の大型化に成功しても転移温度をはじめとする超伝導特性が低下する傾向を示していた。本研究においてはこの課題に取り組み従来の品質を維持したままでの単結晶の大型化に成功した。単結晶の作製は従来と同様に、自己フラックス法を用いた。初期粉末を混合後、ふた付きのるつぼに入れて、960℃で10h溶融した後、1℃/hのスピードで徐冷を行う。従来はこのまま、融点以下まで徐冷を続けることにより単結晶の生成を行っていたが、今回、融点近傍で5℃ないし10℃の温度昇降を行うプロセスを導入した。この結果、転移温度が80K以上とかなり高い値を維持したままで従来の温度昇降を行わないで作製した試料と比べて表面積で比較して2倍以上の大きさを持つ単結晶を生成することに成功した。また、温度昇降を行う温度について比較したところ、温度昇降幅の間に融点である860℃が含まれているプロセスにおいて単結晶の大型化がより顕著となる傾向が認められた。これらのことから、結晶生成の過程において、温度低下によりいったん生成した種結晶が温度を融点以上の温度においても溶融せずに残り、温度の再降下による結晶の大型化が促進されていることが推定できる。本研究で得られた単結晶は同方法によって育成された単結晶としては最も大型化が成し遂げられている。この単結晶を用いてBi系酸化物超伝導体の物理的、化学的な性質が明らかになり、工学的な応用がより推進されることに期待する。
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