本研究では表面形状を原子分解能で実空間にて観察可能な走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope:STM)と薄膜内部の応力変化を検出できる水晶マイクロバランス法(Quartz Crystal Microbalance:QCM)を組み合わせることにより、STM走査中において探針と試料間の相互作用により試料薄膜内部に生じるずれ応力を検出でき、STMによる表面形状と同時にずれ応力分布図を取得する走査型ずれ応力顕微鏡(Scanning Shearing Stress Microscope:SSSM)の開発を行った。 このSSSMを用いて金蒸着膜の大気中における観測を行うことにより以下のようなことが観測された。 1.探針の上下の動きに同期して薄膜内のずれ応力は変化する。 2.探針が試料表面に近づくとそれに応じて大きなずれ応力を発生する。 3.探針との相互作用で生じる応力変化は湿度の影響を受ける。 4.表面形状と応力分布図の同時測定においては表面凹部にて強いずれ応力変化が生じる。 これらの観測結果からSTMの探針は大気中において水膜や汚染層を介して試料表面内部にずれ応力変化を生じさせており、これらが表面形状や湿度により影響を受けることを明らかにした。SSSMは大気中、真空中、ガス中液中において動作可能であり、多くの分野にて応用が期待できる。今後、マイクロトライボロジーへの応用として原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)と組み合わせることにより研究を進める予定ある。
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