工業用純チタン板1種(JIS TP28、板厚2mm)の焼なまし材(800℃1時間、真空焼なまし)を用いて室温ならびに300℃の高温環境下において高サイクル疲労試験を実施した。高温環境下における試験では油圧サーボ疲労試験機に、赤外線反射式電気炉を取り付けて行った。本年度において得られた知見を以下に示す。 1.疲労寿命(S-N曲線) 室温ならびに高温環境下における繰返し応力振幅と破断寿命の関係を求めたところ、疲労強度は高温環境下では室温に比べ約50%近く低下した。これは静的強度の低下割合にほぼ等しいものであった。 2.き裂発生挙動 レプリカ法により疲労き裂発生挙動の連続観察を行った。室温では複数の結晶内で応力繰返しにより生じた多数のすべり帯に沿って微小なき裂が発生し、これらが連結しながら伝ぱ過程へと移行するものであった。一方、高温ではすべりが著しく活性化され全寿命の早い段階で非常に多くの、かつ高密度のすべり帯が形成され、これが粒界とぶつかった部分からき裂が発生することが分かった。また、室温である応力振幅以下ではき裂が発生しない疲労限度の存在が確認されたが、高温では応力振幅が小さくても10^7回の応力繰返し以後ですべり帯が増加する挙動が観察され、明瞭な疲労限度が存在しないことが分かった。 3.疲労き裂に伝ぱ挙動 室温と高温においてほぼ破断寿命が等しい応力振幅下における疲労過程で、微小なき裂の伝ぱ速度を測定した。高温ではき裂が室温に比べ早い段階で生じるが微小なき裂の伝ぱ速度は室温よりも小さく、破断寿命の大半が微小き裂の伝ぱ過程で占められていることが分かった。 今年度における研究成果の概要は以上のとおりであるが、特筆すべき点は高温では静的強度の低下に伴い疲労寿命も低下するが、室温とは異なり疲労限度が存在しないため負荷が小さくても疲労被害が進行することである。このことは純チタンの実用上十分留意すべき点であると思われる。今後この中間の120℃における疲労挙動の解明を進めていく予定である。
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