無応力状態の結晶格子表面の格子間隔は約0.2nmで安定しており、これは長さ基準になりうる。また、走査型トンネル顕微鏡(STM)は、実時間で原子像を観察できる顕微鏡であり、様々な分野への応用が期待されている。そこで、結晶格子をスケールとし、STMを検出器として組み合わせることにより、サブnmオーダの分解能を持つ、リニアスケールが製作可能である。本研究では、リニアスケールの開発と高精度化を試み、以下に示す研究成果を得た。 (1)熱ドリフトの影響の低減:STMによる測長において熱ドリフトは、測長誤差の大きな要因であるため、測定の高速化は熱ドリフトの影響の低減に有効である。本研究では、500Hzの高速走査により、5nm×1.28μmの領域で原子像の取得に成功し、その結果、熱ドリフトによる測定誤差のを従来1/15以下に抑えることができた。 (2)結晶格子スケールと回折格子との比較測長:結晶格子スケールと、SEM用の長さ基準として用いられている回折格子との比較測長を行った。その結果、光波絶対干渉計で検定した回折格子のピッチと結晶格子スケールによる測定値は、約1%の誤差で一致した。 (3)STM探針の原子頂点への制止制御:結晶格子スケールを用いて、超精密位置決めを行う初段として、STM探針を原子頂点へ制止制御する手法を提案した。これは、トンネル電流をロックインアンプに入力し、微分信号を得て、探針を制御するものである。本研究では実際に原子頂点へ探針を制止させることはできなかったが、シミュレーション実験によりその有効性を確認した。
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