伝熱工学の分野では、光はふく射というエネルギーの伝達手段として重要な役割を果たしてきているが、最近のレーザー技術の発達によって、その役割はエネルギーの伝達手段ばかりでなくエネルギーの制御手段としても重要なものになってきている。光を制御手段として用いる概念は化学反応の分野ではすでに一般的なものとなっているが、光を用いて凝縮などの物理現象を制御することはほとんど研究されていないのが現状であり、このような制御が可能かどうか、また可能であるならばどのような物理現象に対しては有効であるのかということですら明らかではない。 これまでに申請者は、NaCl単結晶上へのAgの真空蒸着過程において、凝縮するAg原子やAgクラスターにのみYAGレーザーの基本波(波長1.06μm)を照射し、これらのエネルギー状態を制御することにより凝縮過程および形成される薄膜結晶構造を制御することが可能であることを明らかにしている。しかし、申請者らが行った実験は凝縮現象の光制御の一つのケースに過ぎず、このような光制御が多くの場合に可能であるのか、またそれが効果的な条件(レーザーの波長、光強度等)等明らかにしなければならない問題点は数多く残されている。 そこで本研究では、Arレーザーの波長457.9nmの光を用いた光照射Ag蒸着実験を行い、光制御におけるレーザー光の波長の影響を実験的に調べた。 その結果、波長457.9nm、出力0.82Wまたは1.00WのArレーザー照射の場合、形成された薄膜の電子線回折像にはエピ成長を表すAg(001)のネットパターンが少し認められるものの、同心円状のリングパターン(光照射しない場合の回折像のパターン)が強く表れていた。さらに出力を1.00Wと強くした場合でもこの傾向は余り変化していなかった。この結果より、本実験では波長457.9nmのArレーザーはこれまでのYAGレーザーの基本波(波長1.06μm)ほど薄膜結晶構造の制御には効果的でないことがわかった。
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