ダイヤモンドの電子・光デバイスへの応用については、解決しなければならない課題が多く残されている。その一つにキャリア密度の制御があげられる。本研究は絶縁膜を介した電界によりキャリア密度の制御を行う形のデバイス(MISデバイス)について、その基礎実験を試みた。 電界による変調ではダイヤモンド/絶縁膜界面の状態が極めて重要である。この界面の様子をカソードルミネセンス(CL)と、電気特性による評価を行った。従来、絶縁膜として、SiO_2やBaTiO_3といった酸化物が利用されてきた。しかしながら絶縁膜の構成元素である酸素とダイヤモンド表面が反応し、その結果界面準位密度を形成し、自由キャリアを十分に変調することが困難であることがわかった。そこで、酸素をその構成元素に含まない絶縁膜として、CaF_2について検討を進めた。その結果、ダイヤモンド-絶縁膜界面は界面準位の非常に少ない良好な状態が得られることが、MIS構造の容量-電圧(C-V)特性から判明した。また、ボロンをドープした場合の深い不純物準位に起因するC-V曲線での容量ハンチング特性をダイヤモンドではじめて確認することができた。 一方、このCaF_2絶縁膜の形成はダイヤモンド表面に電気伝導層を形成することがわかった。この電気伝導層をチャネルとしたMISFETを作製し、明確なピンチオフを示す良好な特性が得られた。この新たな電気伝導層の形成要因を探るため、CaF_2の成膜温度を系統的に変え、検討した。電気伝導層の形成には450℃以上の温度が要求される。この温度は、他の研究機関が示した酸素終端されたダイヤモンド表面がフッ素置換される温度と非常に近い。このことはこの伝導層がCaF_2蒸着により、酸素終端から、フッ素終端に変化することにより生じると考えられる。以上のモデルをさらに、CL観察により調べた。やはり、CaF_2の成膜により表面近傍でのエネルギーバンドに変化が生じていることが示唆された。
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