我々の研究室では、微小電極を用いて高電界を印加し、微小な生体物質の測定や操作を行ってきた。しかしこのような実験系では、電界の干渉を排除して電気的測定を行うことは困難である。そこで本研究では蛍光異方性測定法を用いることで、高電界中におかれた生体高分子の配向を測定し、分子の電気的特性を調べることを検討した。 生体試料としてはλファージのDNAおよびpUC18プラスミドDNAを用いた。λ-DNAに対して溶液中で10^6[V/m]程度の高電界を印加すると、DNA分子は分極・伸長し、電界に対して配向することが知られている。このときDNA分子を適当な蛍光性色素で染色し蛍光の偏光成分を測定すると、DNAの配向によって偏光の強度に違いが出る。この蛍光の異方性からDNAの配向の程度を計算することができる。 DNA試料に電界を印加すると、蛍光の異方性は電界強度につれて増加した。これは電界によってDNAが分極し、静電気力と熱運動の釣り合いによって決まる配向分布を持って伸長していることを示唆している。さらにpUC18DNAを用いた実験を数値的に解析することでDNA分子の分極率を求めると、その値は同程度の大きさを持つ粒子の分極率よりも10^5倍ほど大きいという結果が得られた。これはDNA分子が、自分自身の持つ負の電荷によって周囲に正のカウンターイオンを引きつけ、そのイオン雲を含めた形で分極することで、見かけ上の直径を大きくしているためと考えられる。実際、溶液のpHを換えてDNAの配向を測定すると、DNA分子の電荷が中和される低pH領域ではカウンターイオンが減少するため、DNAの配向が弱まる結果が得られた。このことから、水中でDNA分子はその周囲にカウンターイオン雲を伴い、これが分子の分極に大きく寄与していることが確かめられた。現在、同様の方法のタンパク分子の配向測定への適用を検討している。
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