本研究は、衛星マルチスペクトルデータを用いて土地被覆の経年変化を分析することを目的に、フラクタルを導入した新たな土地被覆変化の分析手法(TAFモデル:multi-Temporal Analysis model with the Fractal using satellite multispectral data)の提案とその実用性について検討したものである。研究の成果は次の3点にまとめられる。 (1)観測時期の異なる複数の土地被覆分類図から変化域を抽出する際の技術的な限界を指摘した上で、変化域の広がりの分析にフラクタルを導入しようとする着想に至った意義と本研究で取り扱う範囲を整理した。 (2)観測時期の異なる衛星データから複数の土地被覆分類図を作成した上で、市街地へ変化したと判定される画素(変化画素)を抽出した「差画像」を視覚表示するとともに、変化画素の面的分布形態が一定の空間スケール範囲においてフラクタル性を有することが確認された。 (3)この変化画素に対して算出されるフラクタル次元を介して「単焦点状型、放射環状型、多心型、複眼型」といった市街地形成パターンが類型化できることが判った。さらに、フラクタル次元と差画像とを相互に参照することによって、将来にわたる市街地の変遷を推定できる可能性を見い出し、提案手法の実用性、発展性を示した。 光学センサ、合成開口レーダに代表されるように、高分解能化、多バンド化を目指した衛星搭載センサの開発計画が積極的に推進されている今日、異種衛星データの併用とともに、多時期にわたってデータを活用しようとする研究は、現在世界的にも重要な課題となっている。衛星リモートセンシングとフラクタルといった2つの技術を融合利用するTAFモデルは、これらの課題に十分に対応できる可能性を秘めたモデルであり、衛星データの有効利用技術の一つとして今後の活用に期待できる。
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