研究概要 |
全国規模で地下水汚染を引き起こしたテトラクロロエチレン(PCE),トリクロロエチレン(TCE)は,嫌気条件下において適当なエレクトロンドナーが存在すれば,ジクロロエチレン(DCE),塩化ビニル(VC)を経て,無害なエチレン・エタンへ微生物分解が可能である。本研究では,最初にバッチ実験によりPCEのエチレン・エタンへの転換に及ぼす諸因子を検討した。その結果以下のことが明らかになった。 1)PCE,TCEのDCEまでの転換は容易であるが,エチレン・エタンへ転換する能力はごく限られた微生物源(本研究では下水汚泥)が持つのみである。 2)嫌気分解過程で水素を生成する有機物が効果的なエレクトロンドナーとして機能する。 3)高濃度(80mg/l)のPCEもエチレンへ転換可能であり,その場合,生成水素のほぼ全量がPCEの脱塩素に用いられる生態系が形成される。 次に,高効率型バイオリアクターである上向流式嫌気性バイオフィルター(嫌気性ろ床)を種々の水理学的滞留時間(HRT)で連続運転し,PCE(約3mg/l)の処理特性を検討した。エレクトロンドナーとしては,エタノール(100mgCOD/l)を添加した。その結果以下の知見が得られ,嫌気性ろ床法がバイオレメディエーションの方法として十分適用可能性を持つことが示された。 1)PCEをエチレン・エタンへ転換する集積培養菌を植種源に用いることにより,少量の植種でスタートアップが成功した。 2)PCEは,HRTが2日〜1日の条件で,ほぼ完全に(回収量基準で97〜99%)エチレン・エタンに転換した。 3)CODも良好に除去され,処理水CODは20〜25mg/lであった。 今後,塩化エチレン類の転換効率に及ぼす,流入濃度の影響,エレクトロンドナー添加量の影響,温度の影響等について,さらに検討する必要がある。
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