本研究は、トルコのイスタンブールにあるハギア・ソフィア大聖堂を対象に設定し、1)常時微動測定結果に基づく大聖堂全体の振動特性の分析と調査結果のデータベース化、2)弾塑性シェル要素および立体要素を用いた固有値解析、地震応答解析プログラムの開発と有限要素法による静的・動的構造解析システムの構築、3)数値解析モデルの設定、4)目地(モルタル)を含んだレンガ、石のヤング係数の同定、5)水平荷重時の大聖堂の弾塑性解析を行った。以下にその成果を示す。 1.常時微動測定結果と有限要素法による固有値解析結果の比較より同定された目地(モルタル)を含むレンガと石のヤング係数はそれぞれコンクリートのヤング係数の約1/8〜1/3で、このヤング係数は消石灰モルタルの実験から得られた動弾性係数と良い一致をみた。 2.地動加速度が80〜100Gal程度に相当する中規模地震に対する日本の一次設計(許容応力度設計)用地震力の層せん断力係数は、トルコの耐震設計基準によればイスタンブールに立つ組積造建築物の場合0.18となる。自重+水平荷重を加えた構造解析を行った結果、大聖堂は東西・南北両方向とも中規模地震に対しては安全であることが分かった。 3.地動加速度が300〜400Gal程度に相当する大規模地震に対する日本の二次設計(保有水平耐力の検討)用地震力の標準せん断力係数が一次設計の5倍であることを考慮すると、自重+水平荷重を加えた構造解析を行った結果、大聖堂は東西・南北両方向とも大規模地震に対しては危険であることが分かった。 4.自重+水平荷重を加えた構造解析結果より、バットレスを含む南北方向の方が半ドームを含む東西方向より水平荷重に対して耐力があることが分かった。
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