本研究は、江戸の武家地の成立過程において、「宿」「陣小屋」という武家集団の臨時的な居住の場が果たした役割を解明すること、及びそれが発生する条件となる参勤交代という制度の確立過程との関係を探ることにあった。 以上のような課題に対して、本年度は既に収集したデータの電子化を行いデータベースを作成すること、及びその過程で各資料の再分析を行うこと、に作業の力点をおいた。その結果、以下の点が明らかとなった。 (1)江戸の武家地が完成する前段階で、「陣小屋」「宿」などの居住形態が確認された。これは従来の研究で見過ごされて来た点である。しかも、拝領した土地の上に営まれたケースもあることから、屋敷成立の直接の前提として捉えることも可能と考えられる。 (2)屋敷を拝領した後でも、参勤交代の際に供奉した家臣達が町宿する場合もあった。江戸という完成されたように見える武家地でも、こうした臨時的な居住によって機能の補完が計られていたことになる。武家地、ひいては近世都市の理解において、欠かせぬ視点 を抽出することが出来た。 (3)参勤交代と並んで証人制が、屋敷成立にとって重要な条件となることが分かった。事例によっては、参勤よりも証人が先立つ場合もある。どちらがより屋敷の成立・構成に直接大きな影響を与えたか、あるいはその時間的な前後関係は如何に捕捉できるか、を明らかにすることが今後の課題として浮き彫りにされた。
|