希土類金属と酸素、あるいは水素といった気体との反応性は、遷移金属のそれよりも高く、薄膜作製においては、真空チャンバー内の残留ガス、あるいは成膜速度なより多くの注意を要する。本研究で用いたプラズマフィラメント型イオンビームスパッタリング法では、他のイオンビームスパッタリング法と異なり、プラズマの加速に10kVの高圧を用いたため、以下のような特徴を有する薄膜が得られていることがわかった。すなわちスパッタリングの為のプロセスガスとして用いたArが薄膜内に取り込まれているという事実である。これは成膜後、アニーリングすることで薄膜からのガス放出現象として捕らえることができ、その詳細については薄膜関連の国際会議にて発表をおこなった。加速電圧が高く、なおかつ成膜速度が比較的小さいため、Arが膜中に取り込まれたものと考えられる。透過電顕による観察では特に回折線は見られず、アモルファスに近い構造であることがわかった。 このような薄膜の酸化現象は、勿論バルク材のそれとは大きく異なることが予想されるが、応用面で薄膜の利用が大きく期待されていることを考慮すれば、薄膜の酸化挙動はバルク材と同様、あるいはそれ以上に重要であると考えられる。本研究では希土類遷移金属薄膜として、マイクロマシ-ニング技術でのアクチュエーターとしても期待の大きいTbFe_2組成を取り上げ、さらに状態図上でその隣に位置する金属間化合物であるTbFe_3との組成の違いが及ぼす室温での酸化現象の特徴をとりあげた。水晶振動子による質量変化、及びオージェ電子分光のその場観察から、いずれの場合もTbが初期の酸化で選択的に酸化され、以後膜中へ酸化が進行すると同時に、Tbの酸化膜中で、あるいはその表面で鉄が二次的に酸化されることが理解された。またFeの濃度が異なっても基本的な酸化挙動に大きな変化はなく、Fe濃度が高い薄膜においてはFe酸化が早い時期に始まっていることが推測された。すなわちTbFe系合金薄膜においては、アモルファスに近い構造では化合物相の影響は小さく、固溶相として熱力学的な考察が適用できる系の酸化現象であると考えられる。
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