Ti-Ni形状記憶合金は、すでに広い分野で実用化され、その用途は拡大しつつある。Niが少し過剰のTi-Ni合金を形状を拘束しながら時効すると全方位形状記憶を示すことが知られている。全方位形状記憶合金は高温・中温・低温でそれぞれ異なった形状をとることができる。全方位形状記憶特性は、Ti_3Ni_4整合相の析出および試料の二段階変態と密接に関連していることが知られているが、記憶可能な歪みの大きさや、応力など機械的性質に関する定量的評価も不十分であり、本研究では、全方位形状記憶合金の機械的性質を定量評価を行った。 Ti-51at%Ni合金を真空誘導溶解により作製し、熱間圧延した。圧延板より引張試験片を切り出し、1123Kで溶体化したのち、500MPaの一軸引張応力の下773Kで6ks時効した。 この試料を示差熱分析、電気抵抗、X線回折により調べた結果、B2→R→B19'へと二段階にマルテンサイト変態することを確認した。また、電子顕微鏡観察によりTi_3Ni_4相が均一に引っ張り方向にそって生成しており、その周囲にR相の特定の兄弟晶が優先的に生成していることを確認した。試料に応力を負荷しながら冷却、加熱の熱サイクルを与えると、7MPaの応力では試料の二段階変態に伴って、冷却過程では縮み、加熱過程では伸びて元の形状まで回復していた。このうちB2→R変態にともなう歪み量は約0.6%であり、R→B19'変態にともなう歪み量は、約0.2%であった。応力を53MPaに増やしたところ、B2→R変態では試料は縮むが、R→B19'変態では縮まなくなり逆に少し伸びていた。更に応力を106MPaに増やすと、B2→R変態ではこれまでと同様に試料は縮むが、R→B19'変態では53MPaの時に比べて更に伸び、元の形状よりも伸びていた。以上の結果より形状記憶可能な応力はB2→R変態では106MPa以上、R→B19'変態では53MPa付近であった。
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