研究概要 |
本研究では酵母抽出液を用いて化学物質の添加に伴う解糖系振動の波形の変化を測定し、振動周期、振幅などの指標をもとに定量化することにより毒性センシング法としての可能性を検討した。 まず、安定した振動が得られる諸条件を検討した。自動乳鉢で30分間粉砕した乾燥酵母(Saccharomyces cerevisiae)0.6gを0.2Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)3.0mlに加え、室温で1時間撹拌した。この懸濁液を9000g,15分間遠心分離したのち、その上清0.6mlに1.0Mトレハロース溶液0.2mlを添加し、NADH濃度の変化を340nmでの吸光により測定した。測定温度は25℃に設定した。この条件下で周期約10分の振動が4時間以上持続した。 そこで次に振動が見られている酵母抽出液に、呼吸活性阻害剤、解糖系酵素活性化剤および阻害剤、界面活性剤、重金属、アセトアルデヒド等を添加した。まず溶液添加に伴う外乱の影響を調べるために振動が見られている系に脱イオン水や緩衝液を注入して振動波形の変化を調べたところ影響は無視できる程度であった。そこで次に化学物質を脱イオン水または緩衝液に溶かしたものを10μl添加し、振動波形の変化を測定した。その結果物質添加に伴う振動波形変化は各化学物質の酵素に対する作用の違いを反映し、それぞれ特徴的な変化を示した。また2種類の化学物質を同時に添加した場合、物質の種類によって相加的あるいは相乗的な影響が波形変化に現れた。 最後に本法の振動の再現性を高めると共に、本測定系の試薬化を目的として、凍結乾燥した酵母抽出液により同様の測定を行った。その結果、振動は乾燥を行っていない抽出液同様に誘発され、化学物質の測定も可能であった。凍結乾燥標品は4週間以上の保存が可能であることがわかった。
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