イオン反応とは異なる優れた特長を持つラジカル反応を用いた高立体選択的炭素-炭素結合形成反応を開発するために、1.光学活性スルホキシドをキラル補助基として用い、2.キレーションコントロールによる、α-ラジカルの面選択性について検討した。その結果、1.立体的に嵩高いアリール基(2.4.6-トリイソプロピルフェニル、メシチル)を有するスルホキシドでは、トリル基と比較して、高いジアステレオ選択性でアリル化が進行することが明らかになった。また、立体選択的アリル化におけるコンホメーション解析を行い、ラジカル種のE、Z、スルフィニル基トアリール基の相対位置に関して理論的知見を得た。2.β-ケトスルホキシドのアリル化において、ルイス酸存在下での反応は、カルボニル酸素とスルフィニル酸素のキレーションにより、ジアステレオ選択性が逆転した。現在までに、チタン、亜鉛などのルイス酸について検討したが、完全な選択性の逆転は見られない。1の嵩高い置換基による立体制御法を用いたラジカル環化反応では高いジアステレオ選択性でシクロペンタン化合物を得ることができた。以上の研究成果から、ラジカル反応における立体制御を行う上で、中間体ラジカル種のコンホメーションをいかに固定するかという問に対する知見を得たが、スルフィニル基上への嵩高い置換基の導入および、キレーション形成によるコンホメーションの固定は、ラジカル反応を用いる立体制御法として有効であることが明らかになった。
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