本研究では光照射によりトランス、シス異性化を起こすフェニルアゾフェニルアラニンをタンパク質中に部位特異的に導入し、アゾベンゼンに対するモノクローナル抗体と組み合わせて、タンパク質機能の光スイッチングすることを目的とした。そのために、ビオチン結合タンパク質であるストレプトアビジンをターゲットとして、そのビオチン結合部位近傍にフェニルアゾフェニルアラニンを導入した。一方抗フェニルアゾフェニルアラニン抗体を、ハイブリドーマをマウス腹空内で増殖させることにより作製した。さらに変異ストレプトアビジンの抗体添加による活性変化を調べた。 変異ストレプトアビジンは、フレームシフトサプレッション法により合成することを試みた。これは通常3塩基からなるコドンを4塩基に拡張し、そのコドンに対応させて非天然アミノ酸をタンパク質に部位特異的に導入しようとするものである。まず、フェニルアゾフェニルアラニンを結合させアンチコドンとしてACCUを持つtRNAと、Tyr83部位にフレームシフトコドンAGGTを含むmRNAをそれぞれ作製し、大腸菌の無細胞タンパク質合成系に加えた。合成されたタンパク質をウエスタンブロット法により分析したところ、フェニルアゾフェニルアラニンを含むストレプトアビジンが合成されていることが確認された。このようにしてフレームシフトサプレッション法により非天然アミノ酸を含むタンパク質を生合成することに初めて成功した。 続いて、ストレプトアビジンの活性をドットブロット法により測定したところ、フェニルアゾフェニルアラニンを導入してもビオチン結合活性は保たれていることがわかった。しかし抗体の添加によるビオチン結合活性の変化はほとんどみられなかった。これは抗原抗体結合に比べビオチン結合が強すぎるために、抗体の結合によりストレプトアビジンの活性を阻害できなかったためと考えられる。
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