本研究では、吸着したポリエチレンの構造及び分子運動を明らかにするために、シリカゲルに吸着させた^<13>Cラベルしたポリエチレンの固体高分解能^<13>CNMRスペクトルを観測した。その結果から、ポリエチレンはシリカゲル表面にトランス及びゴ-シュコンホメーションをとり吸着し、この割合はおよそ16:1であり、ポリエチレン鎖は所々で表面から離れループ状になっており、トランス-ゴ-シュ間で速い転移が生じていることがわかった。バルクのポリエチレンの非晶部分のメチレン鎖は、両端あるいは片端が結晶領域に入っているので、その部分で分子運動が束縛されていると考えられる。溶融急冷ポリエチレンでは非晶部分が大きく、非晶部のメチレン鎖はほとんど束縛されず、トランス-ゴ-シュ間の障壁エネルギーはn-ブタンに近い値をとる。一方、結晶化ポリエチレンでは非晶部分が小さく、結晶部分によってメチレン鎖の運動が束縛され、トランス-ゴ-シュ間の障壁エネルギーが大きくなる。シリカゲルに吸着したポリエチレンにおいて、表面から離れた運動性の良い部分も両端あるいは片端が束縛されているのでバルクのポリエチレンの非晶領域と似ているといえる。この表面から離れている部分のトランス-ゴ-シュ間の障壁エネルギーは、結晶化ポリエチレンの非晶領域と比較して大きく、よって、表面から離れた部分は結晶化ポリエチレンの非晶部よりも小さいと考えられる。すなわち、この部分のメチレン鎖は結晶化ポリエチレンの非晶部のメチレン鎖よりも短いといえる。以上より、吸着したポリエチレン鎖には分子運動が強く束縛されたオールトランスおよびゴ-シュコンホメーションをとった部分と、トランス-ゴ-シュ間で速い転移が生じている部分の存在が明らかとなった。また、緩和時間測定を行い分子運動を調べた結果、トランス-ゴ-シュ間で速い転移をしている部分は、バルクのポリエチレンの非晶領域に比べて、シリカゲル表面の影響により分子運動が大きく束縛されていることがわかった。
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