研究概要 |
本研究では国内で唯一稼働中のイオンビーム型原子状酸素発生装置を用いて太陽電池パドルや、人工衛星の温度制御材として機体の表面各部に広範に利用されている高分子材料であり、また、STS-8およびSTS-41,46によるフライトテストの結果から、最も原子状酸素による影響を受ける材料の1つと考えられているポリイミド系薄膜に種々の運動エネルギーを有する原子状酸素を照射し、その反応効率や表面反応の差異等についての基礎的なデータを収集するとともに、EOIM-3等を用いて低地球軌道上で得られたデータとも比較検討を行なうことを目的とするものである。 本研究に使用した原子状酸素発生装置はイオンビーム法をベースとして独自に開発されたもので任意の運動エネルギーを原子状酸素に付与出来ることが最大の特徴である。本装置を用いて宇宙用高分子材料であるポリイミド薄膜に種々の運動エネルギーを有する原子状酸素を照射し、その反応効率や表面反応について基礎的なデータを得るためには安定した原子状酸素ビームを長時間にわたり試料に照射する必要がある。そこで本申請で購入したパルスドバルブ(IOTA-1)によりイオン源の動作をより安定させ、ビームの安定化を図った。改良された本装置を用いて、ポリイミド系高分子薄膜に2eV〜50eVまでの運動エネルギーを有する原子状酸素ビームを照射し、反応効率の運動エネルギー依存性についてのデータを取得した結果、反応レートは運動エネルギーに極めて敏感であること、また、紫外線の同時照射がポリイミドの質量減少に大きく影響していることが明らかにされた。また、宇宙環境に最も近い条件である、5eVの原子状酸素ビームと紫外線の同時照射を行った場合、そのエロ-ジョンレートはスペースシャトルを使ったフライト実験の値(EOIM-3)とほぼ一致することが明らかになった。さらにX線光電子分光法(XPS)の解析結果からはポリイミドを構成しているPMDAとODAの構造のうち、PMDAの部分での劣化が生じていることが推測され、ノリッシュタイプ1と呼ばれる光化学反応が生じて、ポリイミドの劣化が加速されている事が示唆された。これらの実験結果のうち、PMDAの部分でポリイミドの構造が破壊されるという事実は、EOIM-3によるフライトデータの解析結果やNASA-JPLでの実験結果とも一致し、また、紫外線による質量減少の増大はロシアの宇宙ステーション“ミール"の実験結果とも符号する結果である。このように、本実験で得られた結果はポリイミドに対する宇宙環境効果を理論的に説明できる極めて優れたものであると言うことが出来る。
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