ウイルスに感染した植物に主な病徴の一つにモザイク病徴がある。キュウリモザイクウイルス黄斑系(CMV-Y)に感染したタバコ(Nicotiana tabacum品種ky-57)葉では、緑色、黄色、白色部からなるモザイク病徴を示す葉位、ならび葉全体が緑色の葉位が一定の規則性を持って発現する。タバコ葉は、CMV-Yに対して、部位別に異なる反応性を示すことがうかがわれる。ウイルスの感染増殖性の点から部位別に比較した結果、緑色部において、増殖量の高い緑色部と極めて低い緑色部が存在し、前者は生長にともない黄白色に変化し、後者は緑色部が拡大することが明らかになった。生長に重要な働きを示すホルモンの一つであるエチレン生成に着目した結果、黄白色の激しいモザイクに進展する上位葉では、モザイク化に伴ってエチレン生成が高まり、次第に減少することがわかった。エチレン生合成の前駆物質である1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)量と、その酸化を触媒するACC酸化酵素活性量を測定したところ、同様にそれぞれ高まることが示された。さらに、モザイク葉の緑色、黄色、白色部と健全緑色部について、それぞれACC量を比較した結果、モザイク葉緑色部で最も高く、白色部で最低であった。また、CMV普通系による退緑のマイルドなモザイク葉とCMV-Yによる激しいモザイク葉におけるエチレン生成量を経時的に比較したところ、CMV-Y感染モザイク葉で高い生成量を示した。以上の結果は、全身感染におけるモザイク病徴の進展にエチレン生合成が何らかの関連性をもっていることを示唆させる。今後、ウイルス増殖性の低い緑色部位での生長とエチレン生成の関係を調べることで、全身感染葉にみられる反応性の差異について、ウイルス増殖性の異なる緑色部が生じるしくみを知る手段手がかりが得られるものと考えられる。
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