HMG1タンパク質は、高等生物の細胞核に普遍的に存在するDNA結合性タンパク質である。申請者らの研究により、培養細胞内でHMG1を一過性に発現させた場合、共導入したレポーター遺伝子の発現が数倍上昇することを見い出し、この発現上昇はレポーター遺伝子、あるいはプロモーター種に依存しないものであることを認めている。さらに、恒常的にHMG1を高発現する細胞を樹立し、この細胞にレポーター遺伝子を導入した場合、HMG1を一過性に発現させた場合と同様、その発現が数倍上昇した。以上のことから、このHMG1高発現細胞をもちいて、有用遺伝子の高発現系を構築できる可能性が考えられる。本研究では、HMG1の性質を利用して、HMG1高発現細胞内で有用遺伝子高発現系を構築し、その最適化を最終目的とした。当該年度は、HMG1による転写促進領域の同定および改変に関して研究を行なった。 HMG1のC末端側に存在する30残基からなる酸性アミノ酸領域を欠失した変異体を発現するプラスミドをCOS-1細胞にレポーター遺伝子と共に導入した場合、HMG1によるレポーター遺伝子の転写促進能が失われた。また、C末端から5アミノ酸ずつ欠失させたHMG1変異体を発現させ同様に解析した。さらに、HMG2(HMG1との相同性が79%で、酸性アミノ酸の連続配列が23残基からなるタンパク質で、転写促進能を持たない)との対比から、HMG1にユニークな最C末端のDDDDE配列に注目して、この配列のDとEを置換した変異体や酸性アミノ酸領域の21-26の領域を欠失した変異体を発現させ同様に解析した。その結果、全ての変異体で、転写促進は認められなかった。これらの結果より、HMG1による転写促進には、酸性アミノ酸領域全体が必要で、その配列も重要であることが明らかとなった。
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