脂肪酸活性化酵素は脂肪酸代謝の初発反応を触媒する鍵酵素で、その生成物であるアシルCoAは脂肪酸の分解系と脂質合成系という相反する2つの代謝系で利用される重要な代謝中間体である。本酵素のmRNAは5′非翻訳領域が異なる3種類が存在し、発現の組織特異性が異なる。本酵素の発現調節機構を解析するため、著者らは研究計画に掲げた以下の項目について研究を行なった。 1.脂肪酸活性化酵素遺伝子の単離と解析 ラットの本酵素遺伝子を単離し、その転写調節領域の構造を明らかにし、その結果、本酵素遺伝子の3つのmRNAの5′非翻訳領域はそれぞれ別々のエクソンに由来しalternative splicingにより3種類のmRNA(フォームA、BおよびC)が転写されることが明らかになった。 2.脂肪酸活性化酵素遺伝子のプロモーター機能の解析 それぞれのエクソンの上流域(A、B、C)とレポーター遺伝子を結合させた融合遺伝子を肝癌細胞に導入し、3つの領域ともブロモーター活性を有することを明らかにした。さらに、肝臓の脂肪酸活性化酵素mRNAはペルオキシソーム誘導剤であり肝臓のβ-酸化系を亢進させるdi-(2-ethylhexyl)-phthalate(DEHP)により誘導されるが、この時に誘導されるmRNAはフォームBおよびC-mRNAであることを明らかにした。これらの結果より、分解されてβ-酸化系で利用されるアシルCoAの生成がブロモーターB、Cにより、脂質生合成に利用されるアシルCoAの生成がブロモーターAにより主として制御されていることが示唆された。
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