タンパク質抗原を経口的に投与するとその抗原に対して全身免疫系が不応答状態となる現象が知られており、経口免疫寛容と呼ばれている。この経口免疫寛容は、食物抗原に対する過剰な免疫応答を起こさないための生体の調節機構として働いていると考えられて、その誘導機構の解明が、食品アレルギーの発症機構の解明、またその予防・治療法の開発に重要である。本研究ではT細胞集団が均一に近いT細胞抗原レセプタートランスジェニックマウスを用いて抗原を経口投与した後のT細胞の反応性を解析した。 卵白アルブミン(OVA)特異的T細胞抗原レセプターを発現するトランスジェニックマウスOVA23-3に卵白タンパク質を20%含む飼料を10日間摂取させることによりOVAを経口投与した。脾臓細胞、パイエル板細胞をin vitroにおいてOVAで抗原刺激し、サイトカイン産生応答、T細胞増殖応答を測定した。その結果、OVAを投与していないトランスジェニックマウスの脾臓細胞はインターロイキン(IL)-2を強く産生し、インターフェロン(IFN)-γも産生したが、IL-4産生はわずかであった。一方OVAを経口投与したマウスでは、IL-2およびIFN-γ産生応答が著しく低下していたが、IL-4産生については未感作細胞と比較して高かった。未感作CD4^+T細胞は、初期抗原感作の後、IFN-γ等を産生するTh1、またはIL-4等を産生するTh2のいずれかの成熟T細胞サブセットに分化すると考えられている。以上の結果は、OVA投与マウスの脾臓においてTh2様のサイトカイン産生パターンを持つ細胞が誘導されたことを示す。しかしながら、この細胞をIL-2存在下で培養した場合、Th1型のIFN-γの産生能が著しく上昇した。これらの結果より、抗原を経口摂取した場合は不完全な細胞分化が誘導され、これが全身免疫系の免疫寛容として現れると考えられた。
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