今年度は、苫小牧演習林及び森林総合研究所実験林に合計5ヶ所、4.8ヘクタールの調査区を設け、毎木の胸高直径の測定とアオダモ全開花個体の性表現を調査した。また一部の個体について花数のカウントと袋がけによる自家受粉処理、他家受粉処理等を実験的に行い、結実率の比較を行った。なおアオダモの開花はそのほとんどが樹冠上部で起こるために、これらの実験・観察は登はん用具を用いて樹冠部に直接アクセスすることによって行った。 これらの調査実験の結果、アオダモは雄性両全性異株であることが確認され、しかも双方向的な性転換を行うことが示された。花序当たりの花数は雄のほうが多く、両性花の約3倍であった。袋がけ実験の結果、自家和合性があるが、他家受粉に比べ自家受粉の結実率は有意に低かった。また網かけ実験との比較とポリネータの観察から、アオダモは風媒と虫媒の両方を行うが相対的に風媒への依存性が強いことが示された。昨年度までの結果と合わせると成熟林分での性転換率は2.2%/年で、両性から雄への転換は新たに形成されたギャップに隣接した個体で起こっていた。また性比は林分の発達にともなって雄バイアスから両性バイアスに傾き、雄比が林分の胸高断面積合計と負の相関関係にあった。一方アオダモの平均結実率は林分の発達にともなって上昇していた。 これらの結果から、亜高木であるアオダモは林分の発達にともなって樹冠を他樹種に覆われてくるため花粉の送粉効率が急激に低下すると考えられる。上方空間の空いている遷移初期には雄の繁殖成功度が高く、後期には両性の繁殖成功度が高いことから、このような戦略が選択されてきたものと考えられる。
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