研究概要 |
東京大学秩父演習林内の小渓流において,流速,水位,微地形の異なる様々な場所に,渓畔植生中の優占樹種であるフサザクラの落葉について,圧縮条件を2通りに設定して作成したリターバッグを1994年12月に設置し,落葉の分解速度,化学成分分析,葉に付随する微生物活性を測定した。その結果,以下の諸点が明らかとなった。 (1)落葉の分解速度は,圧縮度の低い淵のゆるやかな堆積,および圧縮度は高いが水の転換効率の大きい瀬の堆積では同程度であったが,圧縮度が高く水の転換効率が低い淵尻および岸際の堆積では遅かった。 (2)落葉の窒素含有率,微生物の活性速度は,淵あるいは瀬の堆積に比して淵尻および岸際の堆積において低く,微地形による落葉分解速度の差は,微生物による分解によって生じているものと推察された。 (3)瀬の落葉堆積においては,フル-ド数で示される水理環境が分解速度に影響を与えていた。この条件は,水流による機械的分解作用の差を生じることによって,および水理環境を介した無脊椎動物の分布に影響を与えることによって,分解速度に影響をもたらしているものと考えられた。 (4)淵,よどみの落葉堆積においては,平均水位が小さく本流から隔離される確率が高い堆積では,窒素含有率,微生物の活性速度が低いにもかかわらず分解速度が顕著に高い場合があることが認められた。岸際の構造的複雑性は,流量の低下にともない落葉堆積と粉砕分解者である無脊椎動物の隔離を生じ,落葉の分解を促進する場合があることが示唆された。 以上の結果より,河川微地形と流量変動の相互作用は,微生物活性および無脊椎動物の分布様式を変化させることにより,落葉の分解速度に影響を及ぼすことが明らかとなった。
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