塩素系漂白剤に替わるクリーンで環境にやさしい新しいパルプ漂白試薬系の開発を目的に、過酸化水素の反応性を触媒を用いて向上させることを考えその基礎的検討を行った。 パルプ漂白はパルプ中のリグニンを分解除去することで達成され、反応的にはOH^+などの求電子性の活性種が重要な役割を担っていると考えられる。そこで、これらの活性種を活性化することで効果的なパルプ漂白試薬の開発が可能となる。このような観点から、オレフィンのエポキシ化に有効であることが報告されているヘテロポリ酸触媒に着目し、簡単なリグニンモデル化合物の分解に対する触媒効果を検討した。ヘテロポリ酸としては12-タングストリン酸、12-モリブドリン酸、12-タングストケイ酸の3種を用い、ジオキサン・水混合溶媒中過酸化水素(モル比で20倍量)/ヘテロポリ酸(0.025倍量)存在下70℃で反応を行い、反応の進行をガスクロマトグラフィーにより追跡した。その結果、過酸化水素のみの系ではフェノール性、および非フェノール性リグニンモデル化合物ともに全く分解しないが、ヘテロポリ酸触媒下ではフェノール性モデル化合物は速やかに分解することが判明した。また、ヘテロポリ酸存在下においても非フェノール性モデル化合物は全く分解されなかった。以上の結果より、求電子的な活性種を活性化すると考えられるヘテロポリ酸が予想どうりリグニンモデル化合物の分解を触媒することが示された。なお、分解生成物の解析および過酢酸(過酸化水素の1種の活性型)との反応性の比較などから過酸化水素/ヘテロポリ酸系におけるリグニンの分解機構は過酢酸の機構とは異なっており、ヘテロポリ酸の過酸化物とリグニンモデル化合物中のフェノール性水酸基が特異的な結合を形成することで分解反応が開始されることが示差された。
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