本年度は、(1)メダカ胚におけるメタロチオネインの発現様式の検討、(2)メダカメタロチオネイン遺伝子およびその発現調節領域のクローニングを試みた。 (1)マイクロインジェクション法を用いた遺伝子導入技術により、ニジマスメタロチオネイン遺伝子の発現調節領域(rtMT-A)にバクテリアのクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)を連結した遺伝子(rtMT-A-CAT)をハプロイド当たり1コピーを染色体にホモに持つメダカの系統を確立した。この系統を用いて次のような実験を行った。各発生段階の胚を1個ずつCATアッセイし、メタロチオネインの発現様式を検討した。その結果、発生初期から孵化後7日目までは、発現量が多く、その後次第に減少していき孵化後2週間目以降は全く発現されていないことが明らかとなった。また、重金属(今回は亜鉛を用いた)に対する暴露を行い同様の実験を行ったところ、同様な発現様式が観察されたものの、重金属による発現誘導は観られなかった。これらの結果から、胚の時期において、メタロチオネインは、これまで考えられていた金属包含による解毒機能ではなく、発生過程に不可欠な機能を有することが示唆された。 (2)すでにクローニングされているとう利点から、上記の実験では、ニジマスのメタロチオネインの調節領域を用いて実験を行ったが、胚におけるメタロチオネインの機能を明らかにするためには、遺伝子導入が行われる宿主とメタロチオネインの由来が同一であることが望ましい。そこで、メダカメタロチオネイン遺伝子のクローニングを試みた。既報の他生物のメタロチオネイン遺伝子の保存された配列を参考にしてPCRプライマーを作成し、メダカメタロチオネイン遺伝子の増幅を試みた。アニール温度、ポリメラーゼなど様々なPCR条件を検討したにもかかわらず、現在のところメダカのメタロチオネインと思われる産物は得られていない。
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