研究概要 |
近年、FSH分泌抑制物質として発見されたフォリスタチンが、アクチビン結合タンパク質である事が明らかになり、インヒビン及びアクチビンの調節物質として注目されている。我々は、既にインヒビン・アクチビンおよびフォリスタチンの機能に着目し、これらの因子が膵ランゲルハンス島において発現されている事を解明した。本研究では、インシュリンを産生する膵島B細胞を選択的に破壊するストレプトゾトシンの投与により、実験的に糖尿病を起こさせ、アクチビン、フォリスタチンの発現とインシュリン産生との関係を検討した。 20匹のWistar Imamichi系ラットに、ストレプトゾトシン(STZ,65mg/Kg)を腹腔内投与し、0、2、8、14、24時間後、および2週間後に全採血し、血清グルコース並びにインシュリン濃度を測定した。膵臓は、ブアン液にて固定後、パラフィン切片として免疫組織化学を施した。免疫組織化学に使用した抗体は、フォリスタチンの123-134または300-315残基に対して作られた2種類と、アクチビンのβA(1-10)-Tyr、βA(87-99)またはβB(1-10)-Tyrに対して作られた3種類、計5種類の抗ペプチド抗体である。免疫組織化学には、アビジン-ビオリン-ペルオキシダーゼ法を用いた。 抗フォリスタチン(123-134)抗体に対する反応は、B細胞において認められるにも拘わらず、抗フォリスタチン(300-315)抗体に対する反応はランゲルハンス島では認められなかった。この結果は、B細胞におけるフォリスタチンは、short formのみである可能性を示している。抗βA(1-10)-Tyr反応は、B細胞に認められた。一方、抗βA(87-99)反応は、A細胞に認められた。しかし、抗βB(1-10)-Tyr反応は、A細胞で強く、B細胞では弱く認められた。この結果はβAおよびβBサブユニットの発現パターンがランゲルハンス島の各細胞で異なる事を示している。 STZ投与後2時間までは、ランゲルハンス島における形態学的、免疫組織化学的変化は認められなかった。STZ投与後8時間から、B細胞の変性が観察されるようになり、B細胞における抗フォリスタチン(123-134)、抗体βA(1-10)-TyrおよびβB(1-10)-Tyr反応は減弱し、投与後24時間では完全に消失した。一方、インシュリンの免疫反応は、STZ投与後24時間でも認められた。STZ投与2週間後、殆どのB細胞が破壊されているにも拘わらず、インシュリンの免疫反応は、生き残った細胞に認められた。実際に血中インシュリン濃度は、正常の1/3まで下がるものの、完全には消失しなかった。これらの結果は、STZがB細胞のインシュリン産生よりも、βサブユニットやフォリスタチンの産生に影響を与える事を示している。
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