本研究では末梢性5-HT3受容体を介する体性神経活動修飾作用(骨格筋収縮)に着目し、中枢においてどの様なメカニズムによりこの反射が発現するのかを明らかにすることを目的とした。外因性セロトニンが末梢性セロトニン受容体、特に咽頭部に存在すると考えられる5-HT3受容体を刺激し、求心性舌咽神経活動を興奮させるが、この神経活動は平滑筋ではなく骨格筋である咽頭筋の収縮を誘発し、嘔吐運動を引き起こす可能性があることを明らかにした。また、吸入麻酔薬によっても嘔吐様運動を引き起こすことを明らかにした。さらに、これらの反射の中枢は入力系が孤束核であり、出力系が疑核であることを示唆する結果を得た。すなわち、孤束核へ微小電極を挿入して細胞外電位を観察すると、外因性セロトニンにより活動性の興奮が認められた。また、笑気吸入による麻酔導入時および覚醒時に孤束核における神経活動の上昇が観察され、同時に横隔膜の奇異運動、すなわち嘔吐様運動が観察された。この運動は5-HT3受容体拮抗薬により抑制された。これらの結果は臨床で経験される手術後の嘔吐に関連する現象と類似することが推測され、さらにセロトニンが重要な役割を果たしている可能性を強く示唆するものであった。また、蛍光物質によるトレース実験では疑核に迷走神経咽頭枝の細胞体が存在していることが明らかとなり、遠心性の中枢は疑核である可能性が高いと考えられた。
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