先に、我々は短時間の低酸素潅流を行った心臓では、hydrogen peroxide (H_2O_2)投与による心機能障害やエネルギー代謝障害が減弱されることを認め、このメカニズムに内因性アデノシンが関与することを報告した。ところで、細胞内へのアデノシンの取り込みを抑制し、アデノシン増強作用を有する薬物にdilazepがあるが、dilazepがH_2O_2による心筋障害を軽減させるかどうかは明らかでない。そこで、H_2O_2によって生じる心機能障害やエネルギー代謝障害に対するdilazepの作用について検討した。さらに、アデノシン増強作用が極めて弱いdilazep誘導体であるK-7259が、H_2O_2による心筋障害にいかなる影響を与えるかについても検討した。ラット潅流心臓にH_2O_2を投与すると、左心室内のdeveloped pressureの低下とend diastolic pressureの上昇(心機能障害)、ならびに組織中ATP含量の低下とAMP含量の増加(エネルギー代謝障害)を引き起こした。dilazepはH_2O_2による心筋障害を抑制したが、このdilazepの作用はアデノシン受容体拮抗薬である8-(p-sulfophenyl) theophyllineによって影響されなかった。一方、K-7259もH_2O_2による心筋障害を抑制した。しかし、dilazepとK-7259はH_2O_2による組織中マロンジアルデヒド含量の増加、およびH_2O_2非投与心臓(正常心臓)の心機能やエネルギー代謝に対して影響を及ぼさなかった。以上の結果から、dilazepとK-7259はH_2O_2により引き起こされる心機能障害やエネルギー代謝障害を軽減すること、さらに、このdilazepの心筋保護作用は、エネルギー保存作用、アデノシン増強作用、および脂質過酸化抑制作用とは異なった機序で発現することが示唆された。
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