研究概要 |
ヒト心臓において、キマ-ゼがアンジオテンシンII(ANGII)産生酵素として機能していることが示され、心疾患の病態形成にこのキマ-ゼ依存性のANGII産生経路が重要な役割を果たしている可能性が注目されている。しかし、キマ-ゼの酵素学的特性には動物種差が存在することから、ヒト心疾患の病態解明にはANGII産生能を有するヒト型キマ-ゼを持つ小動物モデルが必要である。このような背景の中で私は、ヒトキマ-ゼと同様にANGII産生能を有するキマ-ゼ様酵素が齧歯類の中では、ハムスターのみに存在する事実を薬理学的実験により見いだした。本研究課題でこの酵素がキマ-ゼであること確定し、酵素学的解析を行うために精製を行い、さらにキマ-ゼの役割を遺伝子レベルから解析することを目的として、遺伝子クローニングを行った。また、ヒト病態モデルとして心筋症ハムスターを用いて心臓キマ-ゼの動態を検討した。その結果、ハムスターキマ-ゼは、ヒトキマ-ゼと同様に特異的にANGIIを産生する酵素である事が明らかになった(LifeSci.58:591-597,1996)。ハムスターキマ-ゼ遺伝子は、全長約3kbで5個のエクソンと4個のイントロンからなる。またハムスターキマ-ゼは、プレプロ酵素として合成され、プレ配列とプロ配列が切断されて227個のアミノ酸残基よりなる活性型酵素になることが解った(論文投稿中)。心筋症ハムスターでは心筋症の発症に一致して心臓キマ-ゼの発現が特異的に亢進し、心臓局所でのANGII産生の増加を介して心筋症病態の形成に関わることを始めて明らかにした(論文投稿中)。ハムスターは、ANGII産生能を有するヒト型キマ-ゼを持つことから、ヒト生体内でのキマ-ゼの役割を解析する上で極めて有用な動物モデルである。本研究課題の研究計画は完全に実行でき、極めて有意義な成果を得ることができた。
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